大型図録本水墨美術大系可翁黙庵明兆室町時代禅宗美術絹本着色絹本墨画紙本墨画掛軸113図著賛落款印章愚谿良全赤脚子一山一寧白衣観音図他 2024

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大型図録本豪華本 水墨美術大系第5巻 可翁・黙庵・明兆 月報付
田中一松 編 講談社 1974年 初版 205ページ カラー・モノクロ 口絵原色図版・本文単色図版  約 44×31×4cm   定価 17,000円
※絶版 ※月報付
『可翁・黙庵・明兆』と題するこの巻には、室町時代の禅宗美術、可翁・黙庵・明兆をはじめとする絹本着色・絹本墨画・紙本墨画・文人画の重要文化財を多く含む掛幅などの作品113図・参考図版39図を収載。 うち口絵カラーは25図。 巻末に、113図の詳細な解説、釈文、寸法、款記・印章の内容、所蔵先の情報もあわせて収録。 
著賛・落款・印章の項では画賛、落款、印章の部分写真を多数紹介。 一山一寧の著賛10図、黙庵の著賛5図に鑑蔵印部分、可翁の落款印部分10図、良全の署名部分7図、愚谿の署名6図、鉄舟の落款3図、明兆の署名/落款/賛15図、赤脚子の落款5図ほか。
海外の美術館博物館等の協力を得て、収載作品は日本国内のものにとどまらず質・量ともに内容充実、モノクロ図版が多いですが大型本のため、画集・作品集として細部までじっくりと見ることができる上、当時最高峰の専門家達による論考も含めて読みごたえのある、骨董品、掛軸、煎茶道具、茶掛、禅宗美術、仏教美術愛好家必携の貴重な大型資料本。 
●監修者 田中一松 米澤嘉圃 ●編集委員(五十音順) 飯島勇(山種美術館副館長) 岡田譲(東京国立近代美術館館長) 川上涇(東京国立文化財研究所) 河北倫明(京都国立近代美術館館長) 倉田文作(文化庁文化財監査官) 蔵田蔵(奈良国立博物館館長) 小松茂美(東京国立博物館美術課長) 鈴木敬(東京大学教授) 鈴木進(美術史家) 田中一松(文化庁文化財保護審議会委員) 武田恒夫(大阪大学教授) 千澤禎治(美術史家) 土居次義(京都工芸繊維大学名誉教授) 中村溪男(東京国立博物館) 藤田国雄(東京国立博物館学芸部長) 松下隆章(京都国立博物館館長) 山根有三(東京大学教授) 吉澤忠(東京芸術大学教授) 米澤嘉圃(東京大学名誉教授)
【目次】 初期水墨画壇の概況-序章 田中一松 可翁・愚谿・良全 衛藤駿 黙庵とその時代海 老根聰郎 明兆とその前後 金澤弘
図版解説 衛藤駿 海老根聰郎 金澤弘
●原色図版 達磨図 蘭渓道隆賛 絹本着色 国宝 向嶽寺 墨梅図 白雲恵暁賛 紙本墨画 重要文化財 栗棘庵 白楽天図 子元祖元賛 絹本着色 重要文化財 武藤家 白衣観音図 約翁徳倹賛 絹本墨画 樹下達磨図 一山一寧賛 絹本墨画淡彩 重要文化財 東京国立博物館 平沙落雁図 思堪 山水図 可翁 蜆子和尚図 可翁 梅雀図 可翁 竹雀図 可翁 布袋図(部分)黙庵 四睡図 黙庵 騎獅文殊図 文殊菩薩図 栄賀 蘭莖同芳図 梵芳 蘭石図 鉄舟 白衣観音図 鉄舟 白衣観音図 良全 出山釈迦図(部分) 愚谿 寒山図 霊彩 白衣観音図(部分)赤脚子 蝦蟇図 吉山明兆 夢窓国師像 周位 普明国師像 明兆 溪陰小築図(部分)
●単色図版 蘭溪道隆像 兀庵普寧像 靖庵 兀庵普寧像 伝長嘉 蘭溪道隆経行像 六祖図 隻履達磨図 出山釈迦図 如意輪観音図 十面観音像 騎獅文殊図 普賢菩薩図 如意輪観音図 菊溪 法燈国師像 覚慧 白衣観音図 蘆葉達磨図 蘆雁図 蘆雁図 寒山図 達磨図 白衣観音図 黙庵 白衣観音図 伝黙庵 白衣観音図 伝黙庵 布袋図 黙庵 布袋図 伝黙庵 聖僧文殊図 釈迦三尊図 寒山図 可翁宗然 寒山図(部分)可翁 寒山拾得図 可翁 朝陽図 可翁 対月図 可翁 出山釈迦図 可翁 白衣観音図 伝良全 如意輪観音図 良全 騎獅文殊図 良全 十六羅漢図 良全 釈迦三尊図 良全 白鷺図 良全 葡萄図 愚谿右慧 漁樵山水図 愚谿 雨中山水図 愚谿 出山釈迦図 愚谿 釈迦三尊図 愚谿 蘆雁図 鉄舟 蘆雁図 鉄舟 墨竹図 梵芳 蘭石図 梵芳 布袋図 白衣観音図 蘆葉達磨図 在中広衍像 春屋妙葩夢中像 昌樹 無極志玄像 周豪 布袋図 栄賀 柿本人麿図 栄賀 釈迦三尊図 栄賀 仏涅槃図 栄賀 十六羅漢図 栄賀 五百羅漢図 明兆 五百羅漢図 明兆 達磨・鉄拐図 明兆 白衣観音図 明兆 白衣観音図 明兆 白衣観音図 明兆 聖一国師岩上像 明兆 聖一国師像 明兆 在山素瑶像 明兆 大道一以像 明兆 溪陰小築図 青山白雲図(部分)伝明兆 白衣観音図 赤脚子 白衣観音図 赤脚子 牧牛図 赤脚子 鉄拐仙人図 赤脚子 釈迦成道図 赤脚子 騎獅文殊図 愚極礼才 白衣観音図 霊彩 文殊菩薩図(部分)霊彩 三酸図 霊彩 涅槃図 霊彩
●参考図版 著賛・落款・印章 参考図 出山釈迦・墨梅図 五祖荷鋤図 復庵宗己経行像 布袋図(伝可翁) 蘆葉達磨図 蘆葉達磨図 叭々鳥図 帰牛図 雪竹図 白衣観音図(可翁) 白衣観音図(伝黙庵) 白衣観音図(伝黙庵) 十六羅漢図(栄賀) 十六羅漢図(伝良全) 子元祖元像 布袋図(愚谿) 竹雀図(愚谿) 岩竹図(伝檀芝瑞) 竹林図 蘭竹図(鉄舟) 騎獅文殊図 縄衣文殊図(愚極礼才) 出山釈迦図 維摩居士図 十六羅漢図(伝明兆) 白衣観音図(明兆) 白衣観音図(伝明兆) 松梅佳処図 一円三祖像(明兆) 円鑑禅師図(明兆) 白衣観音図(伝明兆) 仏涅槃図(明兆) 寒山拾得図(明兆) 五百羅漢図下絵(明兆) 釈迦三尊・三十祖像(明兆) 牧牛図(伝赤脚子) 寿老人図(赤脚子) 寒山拾得図(赤脚子) 豊干・寒山拾得図(伝霊彩) 資料 年譜 参考文献 図版目録 英訳 江上綏
【例言】 一、本全集は、日本と中国の水墨画の集大成である。 一、第一巻「白描画から水墨画への展開」はとくに本全集の序論として、日本と中国それぞれの墨画の原流について概観した。 一、墨画淡彩は、水墨画と深い関係をもつ意味合いから、それを取上げることにした。 一、部分図を掲載したものについては、挿図あるいは参考図版にその全図を提示することに努めた。 一、画題の名称には、編集執筆者が選定、命名したものもある。 一、所蔵者の氏名表示は、国、博物館、美術館、社寺、学校等の公共的機関のほか、国宝、重要文化財等の指定品の所蔵者にとどめた。 一、図版目録に画題、作者、賛者、員数、材質、法量及び指定関係の資料を掲げ、英訳を添えた。 一、当用漢字以外の漢字、および音訓表以外の読みを使用したものもある。 一、襖・屏風・掛幅の左右は、本巻では作品に向っての左右を示す。

●本巻協力者名(五十音順敬称略) 阿形邦三 浅野長愛 熱海美術館 安藤孝行 井上房一郎 梅澤記念館 頴川美術館 鎌倉国宝館 京都国立博物館 玉泉寺 玉蔵院 清荒神清澄寺 クリーヴランド美術館 草場晁 組田昌平 建長寺 建仁寺 小林中 向嶽寺 光源院 興国寺 光明寺 金地院(京都市) 金地院(東京都) 里見常造 三彩社 シアトル美術館 慈済院 慈照院 静岡県庁教育委員会 正伝寺 成道寺 真珠庵 住友吉左衛門 静嘉堂 相国寺 田澤担 大樹寺(東岡崎市) 大樹寺(四日市市) 大蔵経寺 大東急記念文庫 高野時次 長福寺 頂妙寺 長楽寺 天性寺 東京芸術大学 東京国立博物館 東京国立文化財研究所 東福寺 常盤山文庫 中村溪男 奈良国立博物館 南禅寺 根津美術館 ジョン・パワーズ 服部正次 日野原節三 フリア美術館 プリンストン大学 不言堂 藤井明 藤田美術館 文化庁 ボストン美術館 法雲寺 報国寺 細見実 前田育徳会 前田麻名デザイン事務所 正木美術館 松尾寺 万寿寺 妙興寺 妙智院 武藤治太 安田靫彦 柳孝 薮本宗四郎 薮本荘五郎 蔵本公三 大和文華館 永明院 四日市市教育委員会 栗棘庵 鹿王院 鹿苑寺 和歌山県立博物館
【可翁と可翁画】 より一部紹介 可翁は、十四世紀前半に登場した日本絵画史上における最初の本格的水墨画家として、黙庵霊淵とともにその名前が挙げられている。しかしながら黙庵は、嘉暦年間(一三二六-二八)若くして中国に渡ったきり再び日本の土を踏むことなく、至正五年(一三四五)頃にはついに彼地において生涯を終えた人であるから、純粋に日本絵画史上における水墨画家として取扱うことはできない。 ところで可翁は、清爽孤高の気横溢した画蹟を相当数今日に伝えてはいるが、さて可翁なる画家そのものについては未だ不明の点が多い。可翁について現在までに推測されてきた諸説は大略次の通りである。 第一は、その作品に捺されている明瞭な「可翁」印のほかに「仁賀」と読める小印が存在するところから、当時絵仏師として活躍していた詫磨派の画人ではないか、という説である。つまり詫磨派の画家には、勝賀・栄賀など(以下略)
【黙庵とその時代】より一部紹介 黙庵の入元 鎌倉時代末期の禅林は、日本社会の内部で他から隔絶した中国的な社会である。そこには、たんに中国的な建築様式の寺院があり、中国の宗教である禅宗がそこで実践されているというだけにとどまらない。一歩その内に入ってみると、来朝の中国僧を中心にして、その周囲を、日本人の入唐帰朝者達が囲繞している。聞きなれぬ中国語で説法が行なわれ、中国渡来の器物や書画で飾られた部屋、その中で雲衲達は禅録を繙き、なかには最新の中国文人の文学を読み耽ったり、偈頌や詩文を作るために苦吟しているものもある。当時の寺院のある校割帳によれば、”眼床”という記載がみられ、中国風にベッ ドの使用も行なわれていたらしい。このように中国風は彼等の日常生活の細部にまで浸透していたのである。そして、この中国的な社会は、多くの来朝僧と、間断なく行き来をする多くの入唐帰朝者達によって支えられ、常に中国禅林および中国社会に対する、最新の知識と情報にみたされていた。そのために禅林に入団した雲水達は、この日本社会の中に擬制的に出来上った中国禅林の彼方にある、真の中国禅林を求めて、陸続として入宋、入元をとげていった。この事情は、とくに来朝僧の会下で顕著であったらし く、たとえば、清拙正澄(嘉暦元年一三二六、来朝)の死後、弟子達が一度に二十五人も入元したし、また竺仙梵僊(元徳元年一三二九、来朝)の存命中に、その弟子二十数人が同時に入元をとげている・黙庵は、このような一般的風潮の中で中国に渡った。そして、その時期は、従来、日本の嘉暦年中(一三二六-二八)といわれている。しかし、筆者は、この時期はもう少し後のことではないかと考えている。黙庵の法緯は、画中の印章で明瞭なように「霊淵」といい、この名前は、彼の伝匳に関する根本資料である、入元僧鈍(以下略)
【明兆とその前後】より一部紹介 瓢鮎図の序文によって義持が如拙に新様を描かせたことが知れ、周文が京都五山の文雅の友社を基盤に多くの詩画軸を描き、さらに同じ相国寺に育った雪舟が独自の力強さと完璧な構成をもつ山水図を世におくり、自ら我祖如拙、周文と画系を明らかにしたことを知るとき、我、の目は十五世紀の水墨画の様相を、この一派に集中して語りがちである。たしかに水墨画界における如拙以降の新しい展開はめざましいものがある。しかし十四世紀以前のいわゆる初期水墨画時代の水墨画のもっていた意味を考えるとき、そしてその素朴な画風とのつながりという点において忘れられないのは明兆の作品群である。 元来水墨画は禅宗を背景に発展し、しかも禅宗は礼拝対象としての偶像をもたないということが常にいわれる。それが山水図、書斎軸という特殊な美術作品を生み出したともいえる。しかし禅僧が自ら感情移入するための仏画、一種の念持仏的な性格をもつ偶像、すなわち釈迦の出山相や白衣観音などは好んで描かれた。もちろん法系をことのほか尊ぶために、禅宗の祖師たちの像、そしてもっと直接的には頂相が多く描かれたのは当然である。事実十五世紀の水墨画は書斎軸を契機にして圧倒的な数の山水図にすべてが集約されるような印象をもつが、同時に十四世紀と同じ程度の割合でこれらの道釈人 物画、祖師像が残されていることも忘れてはならない。明兆は如拙とほぼ同時代、周文の前半生と平行して活躍しながら、十四世紀以来の伝統的な禅僧画家として一生を過したことにその存在意義を認めなければならない・明兆の作品のほとんどが道釈人物画であり、祖師像であることは衆知のことである・そしてあらゆる寺院の仏画、道釈人物画に明兆、多くは兆殿司筆の伝承のあることは当を得ているがでこれらがまた非常に不正確なものであることも同時に事実である。以下明兆の生涯とその作品を中心に彼の性格と意義、さらに明兆の前後に位置する画家たちの作品にふれて論を進める。
明兆の伝記については、同時代の如拙、周文に関する文献資料が多くないのに比較して、かなりの事蹟を知ることが出来る。明兆は文和元年(一三五二)淡路島に生まれ、若いころおそらく淡路の安国寺に住した大道一以のもとに入信し、諱を吉山と名づけられた。のちに師のあとを追って東福寺に参じたが、この年月については判然としない。そして彼は終生東福寺にあって殿司役にとどまり、晩年に至るまで画筆をふるい、修行の助けとし、水墨画の最盛期である永享三年(一四三一)に八十歳の年齢をもって示寂した。(以下略)
【作品解説】より一部紹介 平沙落雁図(一幅)思堪 一山一寧賛 紙本墨画 五七・六×三〇・三cm 一山一寧の歿年一三一七年に制作下限を置く水墨山水画の最古例である。瀟湘八景中の一つで、狩野探幽の縮図に洞庭秋月図(京都国立博物館)が存在する。帰雁の描写を除けば各構成部分は平板で奥行きがない。単調な皴法稚拙な筆致は、絵巻に登場する画中の障屏に見受けられるもので、両者の関連が注目される。現在「思堪」印をもつ作例は本図のほかに二点(プリンストン大学蔵石橋可宣賛 白衣観音図、瀧島家蔵杜于美図「可翁」印と併存)が存在するが、いずれの印章も微妙に相違し基準作例となれば本図が唯一といわなければならない、。「思堪」印については『本朝画史』にある「寒(堪)殿主」とする説、朝鮮画家とする説、画家の印章でなく一種の鑑蔵印と解する説があるがいずれとも決し難い。しかし十四世紀初期の水墨山水画の様相を示す作例として貴重である。(衛藤駿)
7山水図(一幅)可翁 絹本墨画 七二・〇×三八・三cm 現存する可翁印をもつ作品としては異色の絹本による山水画である。斜めに突出した岩塊をもつ奇怪な山容、重畳と峻立する遠山の構成は、北宗画風の深遠山水画にその原型を求めることができる。可翁が入元した禅僧可翁宗然とすれば、彼地における郭煕、李唐といった北宗画風山水画との接触受容が想定される。しかし構図、筆致ともに初期的な稚拙さが認められるが、一山一寧賛平沙落雁図(図 版6)よりは一層忠実な習作的態度が看取される。(衛藤駿)
蜆子和尚図(一幅)可翁 東京国立博物館 重文 紙本墨画 八七・〇×三四・五cm 蜆子和尚は中国の伝説上の人物で、日々を水辺ですごし、蝦やしじみを食べて生きていたといわれる。禅宗は自らの修行によって悟道にいたることを本来の姿としているところから、礼拝の対象としての偶像をもたず、その教えは「師資相承」せられるべきものである。したがって禅林間では達磨をはじめとする祖師像が大切にされる一方、独白の方法で悟りをひらいた祖師たちの伝説、たとえば寒山拾得や布袋などが道釈人物画として成立することになり、本図もその一例で、技法にとらわれずよく禅機あふれる作品となっている。(衛藤駿)
梅雀図(一幅)可翁 竹雀図(一幅)可翁 梅澤配念館 紙本墨画 大和文華館 重文 紙本墨画 八四・九×三二・二cm 九〇・五×三〇・一cm 写実というよりはむしろ写意に重点がおかれ、大自然の機微を、一枝の竹、一羽の雀の姿に表象したもので、水墨画における禅機の充実これにまさるものはない。竹雀図と梅雀図は、双幅と考えても不思議のないほどに見事な対称を示している。竹雀図の片足をあげて天空を仰ぐ雀は、飛翔直前の姿を活写したものと思われ精気があふれている。画かれることなく残された空間に一陣の風があること を、揺れ動く竹葉は暗示している。梅雀図には馥郁たる梅の香が漲り、小鳥は垂直にのびる小枝の間を敏捷に駆けめぐっている。両者にあって竹葉と梅枝はつけたて風に、雀は濃淡の水墨を要所に配してその生態を活写している。そして宋画にいう細勁の筆使いを想起させる細い雀の足の描写には作者可翁の卓越した筆力を充分に認めることができる。(衛藤駿)
布袋図(一幅部分)黙庵 月江正印賛 一一四・〇×四八・八cm 禅宗社会の外縁には、散聖と呼ばれる、姓名もさだかでなく、人の意表に出る行動で人々を導く、半僧半俗の一群の人、がいる。布袋もその一人であるが、彼は、唐末五代頃の人といわれ、死後、再びあらわれたことで信仰をあつめ、各地でその像が図されたという。おそらく、褝余画家達が画題としてとりあげる以前に、民間信仰の対象として、各種の図様が作りあげられていたと思われる。 黙庵のこの作品は、そうした長い絵画化の歴史を背最にもっている。一見、粗放に描かれた衣紋線、かなり細かく肉体の凹凸を意識した描線は、即興的な面白さや、正確な形体描写よりも、出来上ったパターンを写したような確かさがある。しかし本図をきわだたせているのは、生き生きとした曲線を駆使した顔貌であろう。この曲線は、鼻、眼、耳、腹、袋へと優美K呼応しながら、中心の笑の輪 を画面一杯にひろげていくのである。(海老根聰郎)
四睡図(一幅)黙庵 祥符紹密賛 前田育徳会 重文 紙本墨画 七三・七×三二・五cm 寒山、拾得、豊子、虎の四者が睡る姿を描いたものを四陲図というが、出処は明らかではなく、おそらく、南宋時代頃、禅宗社会で生みだされた伝承にもとづくものと思われる。この画で黙庵は、対象の細部を捨象して、彼独特の息の短い、優美な曲線の集合によって、四睡の一かたまりを描いている。曲線は共鳴し合って、ゆるやかなリズムを画面にひろげていく。彼はさら に、墨の濃淡、ひろがりを活用して、大地と崖と古樹を暗示的に描く。この墨調の使い方はきわめて巧みで、さりげなく点綴された濃墨や、筆の二、三擦が、大地の固さや重さ、崖のくぼみなどを、暗示的にとらえ、四睡の周囲に息づくような空間を暗示し、さきの曲線のリズムと呼応して、画面に生き生きとした趣を与えているのである。上方に、伝歴不明の紹密という人の題があり、下方に「毘陵芯蒭延大季印」の中国人の鑑蔵印がある。(海老根聰郎)
白衣観音図(一幅部分)赤脚子 紙本著色 九三・〇×三四・七cm 赤脚子の印は古くから知られていたが、その伝記は全く判っていない。建仁寺の古心慈柏や東福寺の愚極礼才の賛があることと、この印形が明兆の破草鞋、霊彩の脚踏実地に非常に近いこと、さらに画風のつながりから束福寺画系の第三の画人と確認されるが、遺作はかなりの数に及んでいる。図は深山の奥、渓流につき出した岩上に坐る白衣観音の典型で、他の赤脚子の白衣観音図と比較しても、背景の布置が異なるものの像自体の表現はほとんど同じで、一種の形を用いた制作を思わせるほどである。またこれが赤脚子の多作の一因にもなっているのであろう。像の線描は非常に煩瑣で、短く切断され、ひだを表わすのに平行状の曲線を多用し、しかも筆速がない。この特徴は明兆、霊彩より強調され、そして明兆の力強さはなく、霊彩の洗練さには劣るが非常にまとまりのよい特徴をもっている。背景も同様に複雑で、えぐられたような形の岩、わき立つような波頭、多用される緑青を伴った点苔などに赤脚子独得の画風を示している。なお左方岩の間に赤脚子白文印が捺される。(金澤弘)
達磨・蝦蟇・鉄拐図(三幅)明兆 東福寺 重文 紙本著色 (93)二四一・〇×一四七・五cm (22・94)二三二・三×一一七・〇cm 明兆が自ら殿司役として一生を過した巨刹東福寺のために描いた多くの道釈人物画のうちで、もっとも本格的な筆致をもち、しかも巨大な力作である。中幅の達磨図は岩窟中に正面から捉えられた達磨が画面一杯に描かれる。わが国水墨画の最初期の傑作、藺溪道隆賛の「達磨図」以来の伝統的な形を踏襲したもので、明兆独得の太く、力強い墨線が、微動だにしない宗祖達磨大師の堂々たる姿をあますところなく表現している。当初から左右幅が奇怪な容姿をもつ蝦蟇、鉄拐仙人で構成されていたことは、この三幅が同じ牡丹唐草文の描表具で荘厳されていることで知られるが、五幅一対にされたと思われる。ほぼ同じ寸法の「寒山拾得図」(無款 参考図33)の現存することも附記しなければならない。蝦蟇、鉄拐図は明らかに元の顔輝の図を藍本にしたことが知られるが、比較すれば背景の遠山を明確に描き、樹枝、樹葉や岩、土坡の表現に明るさと形式化がみられることにより、顔輝の幽遠な写実から、やや日本的な趣好への変化がみうけられる。永徳三年(一三八三)から三年の間に描かれた五百羅漢図が比較的原本に忠実であったらしいことと、この図にみなぎる力強さとを考え合せると、この図の制作期は五百羅漢図からさほど遠くない四十歳代と考えるのが妥当であろう。(金澤弘)
(機種依存文字に類似の漢字をあてているところがあります)
★状態★ 画像のものがすべてです。 1974年のとても古い本です。古書特有の古びたにおいもそれなりにあります。
函の外観は通常保管によるスレ、背などのうすヤケ程度、月報にしわあり。 カバー付の本体は天小口とカバー袖に経年並ヤケ・しみ、余白部などに経年並ヤケありますが、 カラー写真図版良好、目立った書込み・線引無し、 問題なくお読みいただけると思います。(見落としはご容赦ください)
<絶版・入手困難本>オークションにも滅多に出ない、貴重な一冊です。 古本・品にご理解のある方、この機会にぜひ宜しくお願いいたします。

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■上記の点をご了承頂ける方のみ、 ご入札くださいますようお願い申し上げます。
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